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『All you need is love.』:ファンタジーガールのワンダーランド006

[連載] ファンタジーガールのワンダーランド006

♪〜All you need is love, all you need is love,
All you need is love, love,
Love is all you need〜♪

愛こそすべて by ビートルズ

今回は、この名曲がオープニングテーマなのです!
そう、愛こそすべて❤︎

命懸けの出産を経て、掛け替えのない命を授かりました。私は、きっと、いつの日か自分の人生を終える瞬間が来ても、Kaoちゃんをはじめて抱いた日のことを想うような気がしています。幸せを抱きしめて、生まれて間もないKaoちゃんを連れ、退院しました。しかし、数日後、小さな異変に気付きました。

病院で安らかな表情を見せていたKaoちゃんでしたが、退院して数日が経つと、どこか苦しそうに見える。顔がいつも真っ赤で、「きゅー。きゅー。」という小さな声を漏らしながら、海老反りになってみたり、宙をかきむしるような仕草で両手をバタバタ。なんとなく安らかさが消えてしまったような印象になりました。赤ちゃんの普通の仕草のようにも見えましたが、私には少し違うような気がして、小さな不安が頭を過ぎったのでした。

生後4ヶ月目を迎えた頃、その不安は大きくなりました。Kaoちゃんは、赤ちゃん特有の胃が不完全な状態に加えて、どうも母乳を飲む量を自分でコントロールできていない様子。通常、赤ちゃんは授乳後に縦抱きしてゲップをしなければ、ミルクを吐き戻してしまいます。しかし、Kaoちゃんは縦抱きを1時間しても、2時間しても、母乳を戻し続けてしまうのです。その量は、少量とは言えないし、絶え間無いのでした。
嘔吐を防ぐ為、Kaoちゃんは、実家の母と交代で、ほとんど1日中、縦抱きの状態。それでも、10分置きで嘔吐してしまう状況が生後6ヶ月ごろまで続いたのでした。それでも、嘔吐を繰り返していながら、Kaoちゃんはぷくぷくと太っていたので栄養不良ではありません。医師からも、栄養不良でない限り様子を観るように言われました。おそらく、なんらかの理由で母乳を自ら飲み過ぎでいたのだと思われます。

同時に生後4ヶ月頃から、だんだんと激しい泣き方をすることが増えはじめました。1度火がつくと、「これ以上泣いたら、この子、死んでしまうのでは?」と思うほどの激しい泣き方で泣き止まない。日に何度も泣いてばかりです。場所見知りや人見知りも著しく、お散歩で外の風に触れただけでも大号泣の日がありました。日常のちょっとしたことで、何か怖いものに囲まれているような、絶叫の叫びをあげ続ける感じです。加えて、夜は眠らないのです。一般的には『夜泣き』と言うものでしょうが、Kaoちゃんの場合は、深刻でした。朝まで一睡もしない夜もありましたが、1歳ごろまでは、寝たとしても5分置きの夜泣きが毎晩でした。その後は10分置き、30分置き、1時間置き、2時間置き、4時間置きとだんだんに減りましたが、夜泣きは、4歳まで続きました。やっと朝まで連続で眠れるようになったのは、5歳近くになる頃です。実は、7歳になる現在も寝る時間は深夜0時過ぎがほとんどで、生活パターンが少し崩れると未だに眠れない日があり、睡眠障害を抱えているのです。

色々と不可解なことが続いた乳幼児期ですが、中でも1番心配だったことは、Kaoちゃんと目が合わず、アイコンタクトができないことでした。授乳中も目が合いません。
又、授乳のための抱っこや縦抱きはさせてくれていました。しかし、私の方からスキンシップとして少しでも抱きしめようとすると、途端に腕の中で暴れだすのです。手を握ろうとすれば、握り返してくれるどころか、振り払おうとする感じで、手を繋ぐことがほとんどできない。
お座りできるようになるころには、どこを見ているとも言えないようなビー玉みたいなお目目で何か考えているみたいな姿を見せることが多くなりました。呼びかけても、振り向かず、反応がない。もちろん笑顔を見せてくれることはありましたが、赤ちゃん特有の周囲に愛想を振りまくような甘え方をする姿は、見受けられませんでした。母である私には、時に、娘の姿がとても孤独に生きようとしているかに見え、とても寂しく感じる瞬間がありました。

しかし、どんな状況であっても、どんな瞬間であっても、Kaoちゃんは本当に愛しい私の赤ちゃんでした。だからこそ、笑顔を増やしてあげたい、ゆっくり眠らせてあげたい、健やかであってほしいという想いが溢れる毎日…。

生後8ヶ月を過ぎたころ、不安がピークに達し、思い立ってネットで検索。
「赤ちゃん 目が合わない」などのキーワードを入れると、今は何でも情報が得られる時代です。すぐに『自閉症』と言う言葉にも辿り着きました。Kaoちゃんの様子は、自閉症の乳幼児期・幼児期に見られる症状に一致する部分が多く、私は密かに「もしかして…」と思ったのです。
発達専門外来の受付は2歳からでしたし、一般的に発達障がい等の診断確定は3歳以降がほとんどと聞いています。自己診断は出来ませんし、本当のことはわかりませんでした。でも、「もしかして…」ということは感じたのでした。

何というか、こういう時、私は私自身が難病者であるためか、ちょっとやそっとのことでは、驚かなかったりします。
その時も、『命さえあれば。』と言うことが真っ先に浮かび、はじめは冷静に受け止められる自信がありました。

しかし、お恥ずかしいことに、その時の私にはまだ、『自閉症』に対する知識がほとんど無くて、ネットで調べた浅はかな知識の中で、何が本当の情報なのかは、よくわかりませんでした。そんな中、色々なページを見るうち、私にとって、とてもショッキングな、ある内容を見つけてしまったんです。

それは…
〜自閉症患者の中には、愛を持たない人もいる。人を人として認識することすら、一生涯ない人もいる。母親すら認識することはない。〜

と言うような内容の記述でした。なんのページだったかも今では、よく覚えていません…一応、論文風なページだった記憶はあります。

何でしょう…
それを読んだ瞬間に、急激に私の中で、張り詰めていた何かが崩壊したんです。
Kaoちゃんが自閉症かどうかと言うことよりは、「愛を持たないかもしれない。」と言う、不確かな情報に、それまでの不安が一気に膨張して、自分でも想ってもみなかった衝撃を感じました。1発 KOノックアウトをされてしまったわけです。

なぜかと言うと…。
私は、これまで、自分が病気だろうと、車イスだろうと、どんな姿だろうと、ある意味では『愛こそすべて。』だと思っていました。私が私と言う人間として生きて行く為に、最も強固に信じて来た信念であり、理想です。
私は、「『愛』があったら、何でも越えられる。ハートが人間にとっての全てだ!」って豪語してしまうような熱血女なんです。

それゆえ、その一文を読んだ時、自分の信念を揺るがすかのような不安の嵐のど真ん中に一気に立たされてしまった。

抱きしめることも、手を握ることも許してくれないKaoちゃん。
もしかして、Kaoちゃんには、私の『愛』が届かないんだろうか?
もしかして…、もしかして…、Kaoちゃんは、人を愛する気持ちが持てないのだろうか?このままでは、ひょっとして、一生、私を「ママ」ってわかる事もないということなのだろうか??!…と。

気が付けば、腕の中で号泣するKaoちゃんを抱きしめながら、「Kaoちゃん、ママだよ!!ママだよ!!私は、Kaoちゃんのママだよ!ママなんだよ?ねえ、ママなんだよ?」っと、何度も叫んでいました。

涙が溢れて溢れて、止まらなかった。Kaoちゃんは、腕の中で泣いているばかりでした。

正直に言います。
あの時、抱きしめて欲しかったのは、私だったんです。自己中なママでした。Kaoちゃん、ごめんね。

自閉症の人が愛を持たないなんて、そんなことは絶対にないと思います。愛し方は様々かもしれないし、言葉や態度で示すことが出来ない人はいるかもしれません。だけど、生涯、「愛を持てない人」なんて、絶対にいないと思います。命をかけて、愛し続けてくれる人が1人でもいれば、愛はどんな人の心にも、いつか必ず届く。命の奥底には、ちゃんと届く。私は、今、そう信じています。

あの夜、私はとても弱い母親でした。
「Kaoちゃんが愛を持たない子なんじゃないか?」なんて、一瞬でも、そんな酷いことを考えただなんて…とんでもない誤ちです。今でも、Kaoちゃんに、なんとお詫びしたらよいかわかりません。

冷静に想えば、Kaoちゃんは母乳を飲み続けて嘔吐が止まらないほどに、私のことを求め続けてくれていたんです。本当に健気で、愛に溢れた優しい娘なのです。そのKaoちゃんの溢れる『愛』のシグナルを受け取れていなかったのは私の方だったのに。

コロボックル、その夜だけはKaoちゃんを抱いて、ずいぶんとわんわん泣きました…。

でも、きっと、その夜だったんだと思います。私が、ワンダーランドの専属コロボックルになれたのは。
それまで、Kaoちゃんが私の顔すら見てくれなかったのは、当たり前のことでした。
だって、それまでの私には、ワンダーランドの市民権は愚か、アクセス権すらなかったのでしょうから。

どんなお母さんも、生まれたばかりの自分の子供と向き合うためには、大変な苦労をして、だんだんと母親として成長していくんです。私の場合、少しはロジカルだったかもしれません。でも、Kaoちゃんを身ごもった時、私は、「必ず、あなたを幸せにします。」とKaoちゃんと約束したのです。こんなことで、弱音を吐いてはいけなかった。『愛』とは、信じる人だけが知る事の出来る魔法だと思うから。

その後、もう一度、色んな事を調べました。診断は受けていなくても、仮に発達障がいを有している場合、早期療育訓練は、早ければ早いほど効果が高いこと。自閉症には様々なタイプの人が存在する事など。

私には専門家になる力は到底ありませんが、Kaoちゃんの専属コロボックルになる力はあるはずです。
ふと、ビー玉のようなお目目で無心でどこかをみているKaoちゃんの横顔を見て思いました…。
「Kaoちゃんが、こちらへ来れないのならば、私がKaoちゃんの世界へ行ってあげる。ひとりぼっちになんかさせてたまるものか。」

コロボックルの心は決まっていました。

こうして、私とKaoちゃんと家族の日々はワンダーランドの扉を開いていったのです。

(あっピグレット❤︎)

さて…。

Kaoちゃん5歳のある日のことです。
本屋さんでオモチャの電話で遊んでいたKaoちゃん。
オモチャから「あなたのたからものはなーに?」と言う音声の問いかけが聞こえて来ました。
耳をそばだてて聞いていたら、Kaoちゃんが迷わず答えてくれたんです。

「ママだよ!」って。

…思わず、後ろから抱きしめました。
All you need is love♪

PS. 先日、無事に卒園しました❤︎

Text by : Aki
姉妹デュオグループSAKURANBOで活動中のシンガーソングライター
ワンダーランドで就業中の車イスUserママ(先天性骨形成不全症)
https://www.facebook.com/sakuranbo.music.info/

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