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『フィンランド語中毒』:フィンランド子育てエアライン005

[連載] フィンランド子育てエアライン004

モイ!

「モイ!」はフィンランド語で「やあ!」というような簡単なあいさつのことばです。
「モイモイ!」と2回言うと「バイバイ!」になります。

音がかわいいですよね。
男性ももちろんモイモイとか言ってるんですが、

「ヘイ!」(モイ!以上に一般的に使います)
「テルヴェ!」(「ル」で舌を巻く)
「モリエスタ!」(ややドスを利かせた感じで)

というように、同じ「やあ!」でも雰囲気の違う言い方もたくさんあります。

今日は、「フィンランド語マジ面白いんだけど!」という私の胸の内を公開しようと思います。

私は中学高校で英語の成績がすこぶる悪く、英単語を覚えるのも辛かったし、点数が悪いと分かっているテストを返却されるのも嫌でした。でも良い点を取るためにコツコツ努力することなく、いわゆる一夜漬けを繰り返していました。日本人なんだから日本語だけで生きていけるやろ!と言って、自分の怠慢を開き直ろうとさえしていました。

そういうわけで外国語に対しては元々苦手意識があって、フィンランドに来ると決めた時も、フィンランド語を修得する気なんてさらさらありませんでした。今、自分がどれくらいフィンランド語ができるのか、実は分かっていません。2年以上レベルを測るテストを受けていないし、読み書き会話、それぞれ別の能力だし、同じ境遇の他人と比較することがないからです。毎日、「おお、通じた、嬉しい!」「今、何て言ったか分かった、嬉しい!」の繰り返しです(あ、ここに中毒性があるんかな?)。のんびりマイペースでちょっとずつ上達しています。

フィンランドに来る前は、「フィンランド人はみんな英語通じるから英語だけで大丈夫だよ」と聞いていました。それは間違ってはいませんでしたが、フィンランド語を話すことで、付き合える人の幅が広がり、心の距離が縮まり、いっそう深くフィンランドにのめり込んでいきました。

フィンランド語は日本語と並んで世界で最も難しい言語のひとつ、と言われています。フィンランド人にも頻繁に「フィンランド語って難しくない?」と聞かれますが、英語が苦手だった私は、英語の勉強が辛かったことに比べると、今フィンランド語を学ぶのは楽しくて楽しくてしかたがないので、いつも答えに窮します。
他のヨーロッパの言語とは全く異なるし、ルールが多いので、難しいとされているのかもしれません。

今年のセンター試験にも登場して話題になったフィンランド語ですが、実際のところ、「そんなニッチな言語があるなんて知らなかったし、聞いたことあるわけ無いでしょ」という人は多いと思います。

そんな人にこそ伝えたい、フィンランド語の面白さ。
外国語が苦手だとか、フィンランド語に興味が無いという方にも、フィンランド語ヤバイ!と思ってもらえること間違いなし。

フィンランド語がなぜ面白いのか、まず〈関西弁に似ている〉ということが導入として最高です。

私の気に入っていることばをご紹介します。

・イタイネン
・ユルキ・カタイネン
・トッタカイ

私は関西人なので「なんでやねん」とか言って育ってきたわけですが、フィンランド人も「イタイネン」とか「アホ」とか言って育ってきてるんです。

上記はそれぞれ

・東の
・ユルキ・カタイネン元首相
・もちろん!

という意味です。
ツッコミ入れたくないですか?

フィンランド語には語尾に「~ネン」が付くことばが多いので、関西人の私は親近感を覚えます。
驚くことにフィンランド人の3人に1人は苗字に「~ネン」が登場します。フィンランド語で「ネン」はふつう「小さい」を意味しますが、名字になると、一族が住んでいた場所を表すことが多いそうです。

例えば、日本の佐藤さんと鈴木さんにあたるのが、ヴィルタネンさんとコルホネンさんです。
(どうでもいい話ですが、私は今年に入って The Voice of Finland という歌のコンペのテレビ番組にハマっています。毎週金曜8時から。しかも今週最終回。審査員に トニ・ヴィルタネンというアーティストがいますが、この番組を通してこの2ヶ月くらいでファンになってしまいました。)

ちょっと前にこんな名前の首相がいました。

ユルキ・カタイネン

人の名前で笑ってはいけませんが、ついツッコミを入れたくなる名前です。
ユルイんか、カタイんか、どっちやねん!

アホネンさんも一般的な苗字です。そしてパーヤネンさんも!
パーヤネンさんを好きになっちゃったらどうしよう。結婚したらハルカ・パーヤネンになる!とか

ところで、実は、みなさんがほぼ確実に知っているフィンランド語が1つあります。

それは、

「サウナ」です!

「サウナ」と、言ってみてください。
フィンランドでも同じ発音で「サウナ」と言います。

フィンランド人にとってサウナは人生に欠かせないといっても過言ではありませんが、フィンランドのサウナは日本のドライサウナと違って、70℃くらいの個室でビールを片手に焼け石に水をかけて蒸気とおしゃべりを楽しむ(注:語弊があります)ものです。サウナの話は記事2~3本書けるぐらい長くなるので、また別の機会に。

フィンランド人に「サウナ好き?」と聞いたら、この返事が返ってきます。「トッタカイ!」

(友だちのサマーコテージのサウナ))

さて、みなさんがフィンランドを少し身近に感じたところで、さらにフィンランド語のおもしろポイントをご紹介します。

それは、〈日本語と同じ発音で違う意味のことばが2000個もある〉ということ。

鹿

リス
うに
花(鼻)
すし

いきなりなんだ、と思われたかもしれませんが、これらのことばはフィンランド語では別のものを意味します。

それぞれ、こんな意味があります。

シカ → 豚
カニ → ウサギ
リス → 枝
ウニ → 夢
ハナ → 蛇口
スシ → オオカミ
イタ → 東

フィンランドの森で、リスを見つけて興奮して「リス、リス!」と言っても、フィンランド人には、「当たり前じゃないか、森はそこら中、枝だらけだ」と思われてしまいます。
鹿が豚でカニがウサギで…と、もう、頭がこんがらがってきますね。

日本語とフィンランド語との間には、こんな風に発音は同じで意味の違うことばが2000個くらいあるそうです!
めっちゃ多くないですか。

ミンナさん、ヘンナさん、フィンランドでは一般的な女性の名前です。
アキさん、ミカさん、フィンランドでは一般的な男性の名前です。

もしかしたらあなたの名前もフィンランド語で何か別の意味があるかもしれません。

フィンランド語を日本で勉強するのは簡単なことではありません。

フィンランド語を勉強したければ、基本的な文法の知識だけなら半年や1年で学ぶことができると思います。
でも、それを使えるかどうかは別の問題で、やはり聞き慣れたり話し慣れたりしないとダメです。それにはフィンランド語にもみくちゃにされる環境が必要です。スポーツみたいなもので、ルールを正確に知ってても、上手にプレイできるかどうかは練習量や経験によるのです。

折り紙や書道のワークショップを通して、「半分に折る」「墨」「ツルツルの方の面」などのことばを覚えました。
出産を通して、「陣痛」「胎盤」「エコー検査」「いきむ」などのことばを覚えました。
友人が事件をおこして、「容疑者」「逮捕された」「調査する」などのことばを覚えました。

これら経験の中で覚えることばは「繰り返し何度も聞くので嫌でも覚える」ことばと、「分かりたいから覚える」ことばがあります。趣味が多い人や、何にでも興味のある人はおトクです。

私は初めの頃、生活で意思疎通できないストレスが溜まって、フィンランド語を速く習得したくて焦っていました。でも、子どもができてから勉強に集中する時間も少なくなり、一方で、聞き慣れ・見慣れ・使い慣れることが必要だ、つまり習得には時間がかかるんだ、ということが分かってから、マイペースにゆっくり学ぶことにしました。

フィンランド語と知り合って約6年になりますが、その間、だんだんと周囲の会話の意味が分かるようになっていきました。それはまるで濃い霧がうっすらと晴れてくるような感覚です。初めは見えなかったものも見えるようになってきました。見渡せる範囲が広がり、自分がどこにいるのかが分かってきました。RPGです。
赤ちゃんが小学生になったくらいの進化です。フィンランド社会に対する印象も変わりました。フィンランド語を学ぶことで、この社会で生きる知識や術をゆっくりと身につけていっているのです。

向上心をたまらなく刺激してくるフィンランド語。

しばらくやめられません。

次回は、モイ!しか言えなかった初々しいころの体験談をお話します。

ナハダーン!(またね!)

Text by : Haruka

2012年フィンランドに8ヶ月間留学し、2015年に移住
2児の子育て、デザイン、写真、買い付け、ガイド、国際交流のお手伝いなど
できることは何でもしまっせ

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