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【CRFイベントレポ】Talk Session⑤ 田中元子さん

── 2019年2月15日、表参道ヒルズ。
 

 
全国各地から「地域共生社会」につながる個性的なパイオニアたちが集まり
大好評を博したCommunity Roots Forum 〜地域共生社会実現フォーラム〜。
 
なんと今回、そのトークの内容を6日間で一挙大公開します!
 
地域の中で、支え手、受け手、世代、分野といった垣根を越えて、
あらゆる立場の人々が自然と集い、住みよい場所となる「地域共生社会」。
その「自然に集う」ための、 きっかけを創る仕掛けとは?

イベントレポ第5回は、田中元子さんです!
 
 
Talk Session⑤
株式会社グランドレベル 代表取締役社長
田中元子 Tanaka Motoko (東京都墨田区)
http://glevel.jp

1975年生まれ。人ひとりでも公共的な存在になれる「マイパブリック」という概念を提示しながら、あまねく人々と都市・まち・建築との関係の再構築を試みる。主なプロジェクトに、都市部の遊休地につくるキャンプ場「アーバンキャンプ」、個人がまちへ出てフリーでもてなしをする「パーソナル屋台」など。
“1階づくりはまちづくり”をモットーに、建物の1階や公共空間を活用し、市民の能動性を高めるプロジェクトを行う。
2018年に「喫茶ランドリー」をオープン。0歳から100歳まで多様な市民が集い、さまざまな活動に使われており、「2018グッドデザイン特別賞グッドフォーカス[地域社会デザイン]賞」を受賞するなど、国内外から注目を集めている。まちに、グランドレベルに人があふれる日常をつくることで、エリアの価値と幸福度の向上を目指す。

「人とまちと日常」を大切に

『グランドレベル』という会社を2016年につくりました。「1階づくりはまちづくり」というモットーを多くの人に実践していただきたく、活動しています。
 新築であれリノベーションであれ、建物の1階は特別な場所です。建物の1階は、「この建物は、わたしの物だ!」と言っても、1階は、誰もが目にする“まちの風景”になるんです。だから責任重大!
 オフィス、住宅、ニュータウン、マンション、公共施設、美術館、博物館、商業施設、ショップ、飲食店……あらゆる建物、施設の1階が大切なんです。
 「まち」とは、どこのことを指すのでしょうか? 人の視野は70度と言われています。両目を合わせると、重なる部分があるので120度。自然に立って見える風景、つまり1階そのものが「まち」なんだと、私は気付きました。そして、この1階をきちんとデザインできれば、まちはもっとよくなる。その伸びしろを感じてこの会社をつくりました。
 みなさんには釈迦に説法かもしれませんが、「人・まち・日常」が大事なんです。だから、何千人、何万人と来るような非日常のイベントをつくるのではなく、日常をつくることにお金を使いましょう、という提案をしています。
 都会の遊休地休地をキャンプ場にする「アーバンキャンプ」や、さまざまなまちに自分の屋台を出して、通行く人に無料でコーヒーをふるまう「フリーコーヒー」を趣味でやっていたります。が、今回はこの話ガッツリ割愛します。この辺りの話は、『マイパブリックとグランドレベル —今日からはじめるまちづくり—』(晶文社)(https://www.shobunsha.co.jp/?p=4530)という本に書いていますので、興味のある方は読んでみてください。

多様なひとがごちゃまぜになって暮らしている

 今回お話したいのは、うっかり始めた『喫茶ランドリー』とうお店のことです。「1階づくりはまちづくり」をモットーにした会社をつくるんだよ!と方々に話していたら、知り合いの不動産屋から、だったら1階づくりのプロとして、東京・墨田区の千歳にある築55年のビルの1階で、何をしたらいいか考えてよ、と相談をされたんです。
 東京都墨田区と聞くとみなさん、下町情緒あふれる場所をイメージする方が多いみたいです。「下町だから、人が集まるんでしょ」と、いじわるのように言う人も少なくないんです。だけど、このエリアは下町ではないんです。隅田川の近くなので水運を使った物流が盛んだった名残で、倉庫や工場が多い場所なんです。
 ところが、この20年で、どんどんマンションに建て替えられてきました。すると、縦に人が、暮らしが積み重なっていく。その結果、どんな賑やかな光景がまちに広がったでしょう? そう思って街に出ると、工場が多くあったときより人が少ないのです。こんなことっておかしい! せめて、この街には誰もが気軽にお茶ができる場所を、と考えたのが『喫茶ランドリー』のはじまりでした。
 わたしは、あまねく人々がいるな、と実感できるのが、「まち」だと思います。車椅子に乗っている人も、子どもたちも、ママさんも、高齢の方々もサラリーマンも――。だけど、今の世の中は、30代女子のためのカフェ、お年寄りのための○○、障がいを持っている人はこっちねって、ターゲティングされ、住み分けされているものばかりです。
 わたしたちが、まちや社会といったものの全体を見た時に、一体どれくらい想像ができるのでしょうか? どんな人たちが暮らしているのだろう? どんな気持ちの人たちが暮らしているのだろう? まちに、1階に人がいない日常のまちに暮らしていると、そんなことを想像することすらできません。それでは、いけません。わたしたちは、もっともっと多様な人々が、ごちゃ混ぜになって暮らしています。そのことを日々体感できるように、いつも「もっといろんな人が見たい」と、わたしは思っています。

健康な状態とは?

 突然ですが、「健康」ってなんだと思いますか? WHO・世界保健機関が定める定義には、こんなふうに書いてありました。
「健康とは、完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態」
 よく心身ともに健康と言いますが、実は、これだと不完全だというわけです。そこにさらに「社会的福祉の状態」が必要だと。でも、わたしたちが「あなたはいま、社会的福祉の状態にありますか?」って聞かれても、えっ、それはどういう状態?って、なりそうですよね。
 わたしは、「社会的福祉の状態」とは、社会とのつながりや人との交流のことだと思っています。社会に居場所があると自然に思えること。それが社会的福祉の状態なのかなと。だとすると、『喫茶ランドリー』は、この部分に寄与できるかもしれない。
 もし、わたしがこの後帰り道で事故にあって、両足がスパーンとなくなっちゃったとします。「かわいそうね、こちらにどうぞ」と、ダサいリハビリセンターに入れられちゃう。だけど、アタマや心は忘れていないわけですよ、それまでの暮らしを。かわいいもの好き、友だちとはしゃぐのも大好き! 足がなくなっても、ヒップな生活しています。そう言いたくないですか?
 たとえ歳をとっても、「若いときよりもっと楽しいわ! 恋もたくさんしています」って。
 障がいを持つことになっても、おばあちゃんになってももっと楽しそうな生活があるよと示すことが、「健康」な人にとっても、今のわたしたちにとっても必要なんだと思うんです。

『喫茶ランドリー』はどんな人でも、あまねく人がくつろげる、自由な場所。そして、人が多様であることを許容できる場です。こういうことを言うと、「やさしい人ですね」ってたまに言われます。そういうときは、こうお返事しています。「あなたは優しくしたい人だから、あなたがわたしを優しくさせてくれました」。あとは環境とタイミングがわたしを優しくさせています、と。ふわっふわっの居心地のいいところと、トゲトゲの痛々しいところにいるときでは、考えることが全然違いますよね。空間やモノのチカラを使って、自由と多様と許容を持つ「優しい環境」を創り出したかったんです。

素人のクリエイティブが暴発する!

『喫茶ランドリー』の入り口はガラス張りで、お店の前をただ通るだけの人も、中の様子が分かる。中にいるわたしは、外にいる子どもとお母さんに「いってらっしゃい」と手をふることもできる。“まちとお話できる設え”にしました。
 中には喫茶室とダイニングテーブル(わたしのオフィスです)。ランドリーなので、洗濯室だけでなく、アイロンやミシンもあります。ここは「まちの家事室」なんです。
 2018年にオープンしてすぐ、オフィスとして使っているダイニングテーブルを貸してほしい、という声がありました。わたし使っているのに。みなさんどう思いますか?
 ダイニングテーブルは、若いお母さんたちが集まってパンをこねる場所になりました。開けてみないと分からないものですね。お母さんたちがパンをこねる間に子どもたちもくつろげるようにと、傍にさっと毛布を敷いて、DVDプレイヤーを置いて、即席のプレイルームをつくっちゃったんです。
 わたしはこういう、普段着のクリエイティビティが大好き。プロは安定供給されます。素人のクリエイティビティは、必要に応じて「ボン!」と暴発するんです。
「うまくないけど、花を生けたよ」と持って来てくださる方もいました。みなさんだったらどうしますか? 「うちの店には合わないので……」と言うか、「ありがとう!」と受け取ったあとに、店の裏に隠しちゃったり? わたしは、店の一番目立つところに飾ります。
 こんなお母さんもいました。ミシンを使ったイベントをやりたい。「ミシンウィーク」というポスターまで勝手につくって。電子ピアノを使って歌声喫茶を開いた人もいました。勉強会や打ち合わせや、みなさん勝手にどんどん実行していきます。
 オープンして半年が経って、持ち込み企画は100以上。わたし、田中元子が企画するものはひとつもありません。それをしてしまうと、「次は何をやってくれるの?」とみんな口を開けて待っちゃうから。機会がなかったら、やらなかったかもしれないイベントを実現できる場にしたいんです。
 ミシンを使っているお母さんたちの後ろで、仕事の打ち合わせをしている男の人たちがいます。毎日来るおじいちゃんがいます。実はお母さんたちが公園でナンパしてきたおじいちゃんなんです。「ちょっといい店あるから行こう」って。
 この店は、ドリンクを頼んでくれたら持ち込み自由なんです。そのため、天ぷらとか刺し身とか、空気読まずにどんどん持ってくる人もいます。

補助線のデザイン

 真っ白な画用紙を渡されて、さあ自由に描いてくださいって言われたら、ちょっととまどいませんか? でもうっすらと補助線がひいてあったら? 下絵があったらどうでしょう?
 補助線のデザインを空間に取り入れることで「こんなことできるかも!」という、それまでし得なかったことを想像して使える場になる。
「こんなことできちゃった!」という個人の生き生きとした能動性がまちに表出してくる。
 そして、こういった人々の能動性を引き出すのは、サービスだけじゃなくて、ここにいたいなって思ってもらえるハードのデザイン、そして、サービスとハードをつなぐコミュニケーションのデザイン、この3つによってつくられるものです。まちに、人々の能動性があふれる、そんな日常をこれからもつくっていきたいと考えています。

ライティング : 山本 梓

最終回は全員登場のクロストーク!
どうぞお楽しみに!!!

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