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『お父さんに殺された女の子、娘を殺してしまったお父さん』(後編):フィンランド子育てエアライン003

[連載] フィンランド子育てエアライン003

モイ!

前回の重い話を読んで下さった方、ありがとうございました。

さて、私はあれから亡くなってしまった女の子のことを考えても写真を見ても、
涙が出ません。
悲しいかどうかも分かりません。
亡くなってしまった事実を感じることができないのです。
自分で驚くほどクールに、彼女の思い出を話すことができます。

私たちは女の子のお母さんアンナに事件の後に会いました。
彼女は「今は怒りは感じない、愛だけを感じるの」と言いました。
非常に衝撃的なできごとがあった時、人はすべての感情を一度に感じるのではなく、
ちょっとずつ消化するように、感情は順番にやってくるのだそうです。

私もたぶん、自分の心の中の悲しみの箱に、蓋をしてしまったのだろうと思っています。
その蓋がいつ開くのか知りませんが、開くことを思うと辛いなあ…

私の知っている事実から事件の経緯をとても簡単に書くと、こうです。

———

・フランス人男性とフィンランド人女性のカップル(事実婚)の間に3才の娘がいた
・事件の1年半前に女性が離婚を切り出した
・男性は離婚を受け入れなかったが、彼女の家を出なければいけなかった
・男性は住む場所がなく、車に寝泊まりすることもあった
・娘の養育権は両親にあった
・男性はパートナーとの関係改善を望んでおり、娘をその交渉材料に使うことがあった
・男性は娘を保育園に迎えに行った後、約束の時間になっても母親のもとに戻さない、無断で連れ出しどこにいるか分からない、というようなことを繰り返した
・実際に暴力が振るわれたわけではないが、女性は身に危険を感じ、娘と共に保護施設に逃げ込んだこともあった
・保護施設の職員は父親の話を全く聞こうとせず、ただ母親と娘を父親から引き離そうとした
・私たち夫婦はなんとか友人家族の助けになろうとしていたが、疲弊してしまい、事件の半年前くらいからしばらく距離を置いていた

———

事件の数日後にテレビに犯人が映し出され、手で顔を覆っていましたが、
それは紛れも無くルイでした。
何人ものカメラマンに囲まれてシャッターを切られる友人の背中。
映像が語るものは大きい。
ずいぶん痩せた。
私たちはニュースを見ながら心が握り潰されるようでした。

報道で伝えられる内容には、ルイの立場を養護する姿勢は全くありませんでした。
私はそれに憤りを感じていました。
日本でも頻繁に殺傷事件が報道されていますが、
その背景には報道とは違う視点でのものの見方があるんだと、その時知りました。
犯人も人間で、だれかの友人で、親もいれば家族もいたのです。

精神的に追い詰められている人は、周りから見て異常な様子であっても、
当の本人はそれに気がついておらず、
自分は正常だ、まだ大丈夫だと思っていることは多いのではないでしょうか。

1ヶ月くらい、私たち夫婦はずっと事件に囚われていました。
いままで暮らしていた場所の景色さえ変わってしまったように見えました。

そして、たくさんの人といろいろな話をすることで、
だんだん日常を取り戻していきました。

話の内容は多岐にわたりました。

———

・言語のこと
フィンランドの公用語は2つあります。
フィンランド語とスウェーデン語。
フィンランド語を日常的に使う家族が全国で約90%、スウェーデン語が5%。この割合は地域によって変わり、ポルヴォーはフィンランド語約64%、スウェーデン語約30%で、保育園から高校までフィンランド語とスウェーデン語と学校が分かれています。
ルイの彼女アンナはスウェーデン語家族で、アンナが友人や家族とスウェーデン語で話をするとき、ルイは疎外感を感じていました。
フィンランド語をすばやく習得したルイが、なぜ彼女の母語であるスウェーデン語を勉強しなかったのかは分かりません。

・移民、難民のこと
移民と難民を一緒にはできませんが、外国から来た人がフィンランドに住むということが簡単ではないのは共通します。
異文化を背景に育った人がフィンランドにやってきてどう暮らすのか。何が問題となるのか。
ルイは黒人で、それが原因で人種差別を受けてきたし、フィンランドでも経験があると言っていました。

・離婚問題のこと
フィンランドは離婚率50%と聞きますが、事実婚カップルも多いので、噂が本当なのかどうか分かりません。
とにかく周囲に離婚や再婚が多いのは事実です。そのとき子どもは?

・保護のこと(児童福祉法など)
フィンランドに限らずヨーロッパでは、家族より本人の意志が尊重される、らしいです。
たとえば、精神的にまいっているひとが、自分で「異常です」と言わなければ周りの人が保護できない、らしい。
また、子どもが「父親に暴力を振るわれた」と言えば、父親の意思にかかわらず家を出ることができる、らしい。
※このへんはまだ勉強不足で「らしい」としか言えないので、確認します m(_ _)m

・冬の暗さのこと
これは笑えない話で、フィンランドでは暗く寒く長い冬が、人の心を蝕んでいます。
フィンランドの自殺率の高さは時おり話題になりますが、冬の暗さにも大いに関係していると思います。

———

これらのテーマについては、この連載の中で後々もっと詳しく触れます。

ところで、今週14日に国連が世界の「幸福度ランキング」を発表しました。
http://www.afpbb.com/articles/-/3167398?pid=19937596

なんと、フィンランドが1位に輝きました!
この幸福度は1人あたりのGDPや、社会保障、平均寿命などの指標から算出されています。
今回は移民の幸福度でもフィンランドが1位になったそうです。(ほんまかいな)

「幸福度ランキング1位」の国でも殺傷事件は起きるんですね。
みんなニコニコしてるわけじゃないし、悲しみや苦しみもある。

人生はひとつひとつ違うから、
自分自身の幸福度を大事にしないと。

長くなりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございました。

次回は「ファミリーネウボラ」の話です。
明るく軽めの話にします。
ご安心ください。

では、ナハダーン!

Text by : Haruka

2012年フィンランドに8ヶ月間留学し、2015年に移住
2児の子育て、デザイン、写真、買い付け、ガイド、国際交流のお手伝いなど
できることは何でもしまっせ

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