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【CRFイベントレポ】Talk Session② 藤岡聡子さん

── 2019年2月15日、表参道ヒルズ。
 

 
全国各地から「地域共生社会」につながる個性的なパイオニアたちが集まり
大好評を博したCommunity Roots Forum 〜地域共生社会実現フォーラム〜。
 
なんと今回、そのトークの内容を6日間で一挙大公開します!
 
地域の中で、支え手、受け手、世代、分野といった垣根を越えて、
あらゆる立場の人々が自然と集い、住みよい場所となる「地域共生社会」。
その「自然に集う」ための、 きっかけを創る仕掛けとは?

イベントレポ第2回は、藤岡聡子さんです!
 
 
Talk Session②
株式会社ReDo 代表取締役
医療法人社団オレンジ
理事 藤岡聡子 Fujioka Satoko
東京都新宿区
http://redo.co.jp
http://orangeclinic.jp

1985年生まれ、徳島県生まれ三重県育ち。夜間定時制高校出身。自身の経験から、「人の育ち」「学び直し」「生きて老いる本質」をキーワードに、人材教育会社を経て24歳で介護ベンチャー創業メンバーとして住宅型有料老人ホームを立ち上げる。2015年デンマークに留学し、幼児教育・高齢者住宅の視察、民主主義形成について国会議員らと意見交換を重ね帰国。同年11月、福祉の再構築をミッションに、株式会社ReDoを起業。2017年東京都豊島区椎名町にて「長崎二丁目家庭科室」を立ち上げ、高齢者から地域の若手が知識・経験を学ぶ場所として0歳から80代までのべ1000人が通う場を運営。その仕組みやデザインのユニークさから約11ヶ月の期間でTVメディアにて放映4局5番組、雑誌・新聞等にて5誌、ラジオ局2局2番組、ウェブメディア2媒体、業界紙の巻頭インタビューに掲載されるなど、業界から注目されている1人。2020年4月長野県軽井沢町にて診療所と大きな台所を持つ「ほっちのロッヂ」の開業準備に着手している。

没頭、熱中、表現の場づくり

 素晴らしいフォーラムにお声がかけいただき、ありがとうございます。撮影もOKですし、twitter(https://twitter.com/wackosato)もこの場でフォローいただいてもかまいません。では、早速はじめていきますね。よろしくお願いします。

 今、福祉に必要なのは「没頭、熱中、表現の場づくり」だと考えています。
 
わたしは小学6年、12歳の時に、父親を亡くしました。父は呼吸器専門の内科医だったのですが、肺がんを患いました。父、そしてわたしたち家族にとっても、大変なときでした。
 思春期のときに、家族の一人が亡くなるという体験をして、これからの人生をどう生きていこう? と考えたときに、今よりも“人が亡くなる環境”をよくしたいと思ったのが、いまの活動の原点になっています。

 9年前の24歳のとき、東大阪市で50人規模の住宅型有料老人ホーム・介護ベンチャーの創業メンバーとして立ち上げをしました。そのときから「老人ホームにはなぜ老人しかいないの?」と“箱物”の福祉環境についての疑問をいつも口にしていて、現場の介護士たちからは「はあ?」という顔をされていました。
 無我夢中で働いてる最中、最初の子どもを妊娠した直後にその後、今度は実の母親にも癌、悪性リンパ腫が見つかりました。(母は数年後看取りました。)“箱物”の福祉環境をどうにかしていきたいという思いもありましたが、当時は家族を優先させて東大阪の老人ホーム、会社からは抜けることにしました。

思いがけない出会いのきっかけの場


 わたしがやりたいことは、首藤さんがさきほど話してくれていました。なので、首藤さんのお話(https://ubmag.jp/interview/post-4822)をここでもイメージしてください。
 池袋から一駅の椎名町というまちに、まちの人たちがアイデアを出し合ってできた空き家をリノベーションしたゲストハウス兼カフェがあるんです。そのカフェをお借りして、2016年7月から、「しいなまちの茶話会」という、月に一度美味しいお菓子とお茶を飲む会を開きました。
「まちの人のために!」なんて全然思っていません。ただ、わたしがこのまちの一人ひとりのことをもっと知りたかったからです。
 商店街で商売をするおとうさんおかあさんや、そのお店の前を子ども園の送り迎えで通る親子、通勤で早足で通り過ぎる人―。普段、出会いそうで出会わなかった人たち同士で出会って欲しいと思ったんです。

 この茶話会は、地元で長く住んでいる方々が話し手です。平均年齢68.25歳とありますが、最高齢で83歳のプレゼンテーターがいます。たまに50代の方が来ると「今日は若いねえ」なんて声が上がります。105名が参加し、それぞれ小さなこの場所のファンになってくださいました。
 74歳のマツマルさんという女性は、その昔、今は亡き野村沙知代さんの服をオーダメイドで作っていたそうです。こうやって、いろんな人に話し手になってもらって「このまちには手を動かすのが好きな人が多いな」と気づいたんです。プロでやってらっしゃる方も少なくない。そういう作り手たちの表現する場をつくりたいと思いました。
 この想いがきっかけとなり、同じ場所で「長崎二丁目家庭科室」という場所を開くことになりました。手を使った習い事のほかに、ヨガや地元密着の看護ステーションの方に来てもらって、健康相談ができる場にしたり、豊島区の高齢福祉課の方に来てもらって、認知症サポーター養成講座を小学生の親子向けに一緒にやったりしました。思いがけない出会いのきっかけの場にしたかったんです。
 家庭科室は2017年4月から2018年2月まで開き、延べ1067名の方に参加してもらいました。

市井の表現者たちの舞台を用意する


 よく「福祉」という文脈では老人を活かすには? という語られ方をしますが、わたしはそこには興味がないんです。私が興味があるのは、目の前の人が熱中・没頭するポイントはどこか?ということ。
 誰も気づかなかった才能に気づき、その才能を最大に表現できる場をつくることで、小さな集まりが最大化していく。
 眠っていた才能を覚ますことで、熱中・没頭につながっていくと思っています。
 昨年の2月に家庭科室の看板はたたみましたが、それまで定期的に通っていた人たちが「あら終わりなの? じゃあ連絡先交換しなくちゃ! また集まろうね」と、自主的にまちの人の表現の場を維持しようと動いてくれました。表現をする文化が生まれたなあと、すごく嬉しかったです。

自分が受けたい未来を考え抜くこと


 2018年11月、自分の気になる事例を見ようとイギリスへ行きました。
 日本の高齢者施設では、よくレクリエーションなどででちぎり絵や塗り絵をやったりしますね。が、イギリスでみてきた事例、「drawing life(https://www.drawinglife.org/)」では、モデルをおいて、描く、という本格的なデッサンをやっています。もちろん、参加されるのは認知症の方も含まれます。手を動かす認知症の方たちの前には、かっこいい男性モデル! ここにも秘訣がありそうですよね。さらに、イタリア人の情熱的な講師が、描いた作品を褒めて褒めて褒めちぎるんですね。すると、1時間ずっと描いているんです。まさに没頭・熱中されてるんです。短期記憶障害なんて言葉、なにそれ?というくらいです。
「Arts 4 Dementia」(https://arts4dementia.org.uk)という認知症の方がダンスをするワークショップの見学にも行きました。日本では「みんなでラジオ体操〜」というイメージがありますが、みんなと同じことしたくない人って絶対いる。そういう選択肢の少なさが問題だと思っています。ここでは「『雨が降る』を身体で表現してください」って言われて、認知症の方たちは「こうかしら?」ってやってみるんですよね。すると先生が「いいですね〜! もっとやってみましょうか」ってここでも褒めるんです。そうやって、表現をどんどん引き出していく。
 さらに言うと、この会場はロンドンの一等地にあるオペラハウスのスタジオ。ワークショップが終わって、この中のカフェでみなさんとお茶したんですが、めちゃめちゃいいなと思って。わたしがもし認知症になっても、ロンドンの眺めのいいカフェで旦那さんやお友達と一緒にお茶してるって、すごく素敵だなあって、思いました。
 将来自分が受けたいケアや未来について考えることで、今が変わっていくんだと実感した旅でした。

福祉に必要なのは「仲間づくり」


 私の3人目、7か月の息子がそこ(会場の客席)で眠っております(笑)。この子を出産する時に「長崎二丁目家庭科室」を閉じまして、今は長野県・軽井沢町でケアの文化拠点をつくろうと動いています。『ほっちのロッヂ』(http://hotch-l.com)です。運営するのは医療法人オレンジで、オレンジ代表の紅谷浩之と私のの共同代表という仕組みです。診療所・病児保育・デイサービス・訪問看護などの在宅医療拠点です。
 今、福祉の環境に必要なのは、いわゆる「認知症のためのまちづくり」ではなく、子どもが中心になるまちづくりが必要なのではないでしょうか。『ほっちのロッヂ』は教育と福祉を横断するような環境を目指し、軽井沢町で、幼稚園・小学校・中学校が新しく出来る動きと合わせて開業を目指しています。未来をつくる子どもたちに、目の前の大人の生き様を見て、感じ取ってもらいたいと思います。
 けれど、今の福祉ってハードルが高い、きつい、くさい……ってまだまだそんなイメージなんですよ。めちゃくちゃ悔しくないですか? すごくクリエイティブな仕事なのに。そのイメージが変わっていかないのって「仲間づくり」ができていないからなんじゃないかなと思うんです。
 だから今、『ほっちのロッヂ』の拠点づくりから一緒にやろうよって声をかけています。首藤さんの「はっぴーの家ろっけん」(http://y-shuto.com/archives/category/はっぴーの家ろっけん)みたいに、いろんな仲間をつくってごちゃまぜに関わり合うっていうのが、ほんとうにいいなあと思って。
 「ほっちのロッヂャー」を募る、というクラウドファンディング(2019年2月4日〜3月18日 23時まで。現在は終了。)をしています。『ALL YOURS』(https://allyours.jp)というあたらしい方法で服をつくっているアパレルメーカーのやり方を習っています。まずは、支援者・寄付者ではない「主客同一の関係」が必要だという考え方。わたしたちも福祉をお金を払ったから受けられるという“一方的なサービス”ではなく、自ら動き“自分ごとにする仲間”を1人でも増やしていく仕組みにしたいと思っています。クラウドファンディングで、仲間がいることを可視化していきたいのです。
 「課題解決型のコミュニティ」を目指し、「ほっちのロッヂャー」が普段抱えている課題、心配事を共有できる場にしたいと思っています。

 最後に、福祉業界で働くみなさんへ、わたしの考えをお伝えさせてください。
 ・誰かのために、ではなく、自分がしたいという考えからはじめよう。
 ・どんどん業界外に出ていこう。
 ・意識的な発信を仲間とともに強めていこう。
 以上です。どうもありがとうございました。


▲『ほっちのロッヂ』についてはこちらの記事もぜひご覧ください!

ライティング : 山本 梓

次回Talk Session③は岡千賀子さん!
どうぞお楽しみに!!!

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https://ubmag.jp/tag/crf